未払賃料、連帯保証人にどこまで請求できる? 前編

 

 アパートやマンションを賃貸している大家さんにとって、大きな悩みの一つは、家賃の安定的回収ではないでしょうか。

 そのために、賃貸借契約を締結するにあたっては、賃借人となる人の素性なり、収入に関する資料を求めて、賃借人が支払を履行する人かどうか、しっかりと見極めるのが大事です。

 

 また、仮に、賃借人が何らかの事由により、家賃の支払を滞らせることになった場合に備えて、連帯保証人を入れることも一つの方策として、長年行われてきました。

 

 連帯保証人となる人は、賃借人の親族であったり、友人であったり、身近な人たちがなるだけに、賃借人には賃料の未払を極力回避しようという心理的拘束が働きますし、第三者の連帯保証人がついていることで、大家さんとしては、回収先の幅が広がります。

 

 近年では、賃借人から保証料を得ることを対価として、保証人となる賃料保証会社のようなものも多く出てきまして、連帯保証人をお願いできる親族等がいない賃借人でも、賃貸借契約の締結を行いやすくする環境となって来ました。

 

 ところで、素朴な疑問として、親族等が賃貸借契約の連帯保証人になっている場合、この連帯保証人はどこまでの保証義務を負うのでしょうか。

 

 

賃貸借契約の保証対象は未払賃料だけではない

 

 まず、賃貸借契約の連帯保証人は、未払賃料だけでなく、未払賃料の遅延損害金、解約された場合の原状回復義務や賃料相当損害金の支払義務を負うことに注意が必要です。
 単に未払賃料だけのつもりかもしれませんが、実際は、賃貸借契約に付随する債務を負うことが原則です。

 

改正民法により違いが生じる

 

 令和2年4月1日から施行される改正民法では、保証に関する制度も、現行から変更される部分があり注意が必要です。

 

 そこで、改正民法施行より前と施行後に行われた連帯保証では、取扱が変わることになりますので、施行前と施行後に分けて検討してみたいと思います。

 

 改正民法施行(令和2年4月1日)前に締結された連帯保証契約については、前編の本ブログ記事で、改正民法施行以後に締結された連帯保証契約については、次回、後編でご説明したいと思います。

 

未払賃料をどこまで負担するのか

 

 そもそも、継続的に賃料が発生する契約の連帯保証をしているのですから、未払賃料が継続しても、その債務を負担し続けるのは致し方ないとされるところが基本的な考え方です。

 

 また、賃貸借契約は、通常、自動更新されますが、自動更新された後の未払賃料についても、保証契約において、更新後の支払義務を負わないといった特約が明記されていない以上、連帯保証義務が継続するというのが判例の姿勢です(平成9年11月13日最高裁判決)。

 

特別解約権行使の余地

 

 しかし、期間があまりにも無制限というのは、連帯保証人に酷と言うものでしょう。

 

 そこで、判例は、賃借人に賃料不払いが継続して、賃借人の資力に対する信頼が措けなくなった時点で、連帯保証人が将来的に保証契約を解約する意思表示を行使することで、意思表示から一定期間後での保証契約の解約成立を認める余地があるいう判断を示しています(いわゆる特別解約権。昭和8年4月6日大審院判決)。

 

 この判例では、6か月滞納した時点で連帯保証人が保証契約の解除の意思表示を行い、その2か月後での保証契約の特別解約が認められていますので、8か月間の未払賃料まで保証契約の範囲内とされたことになります。

 

特別解約権行使の機会なく長期間経た場合は

 

 上記は、大家さんが連帯保証人に未払賃料の督促を行い、連帯保証人が特別解約権を行使した場合です。

 それでは、大家さんが何年か分の未払賃料が積み重なった上で初めて連帯保証人に督促を行った場合はどうでしょうか。

 

 未払賃料の事実を知らない以上、連帯保証人は特別解約権の行使をする機会がないわけですが、行使しないことによって、何年か分の未払賃料を負わないといけないのは、不合理な感じがします。

 そこで裁判例では、大家さん側から、連帯保証人に何らの連絡もなしに長期間分の未払賃料を請求するというのは、予想外の不利益を連帯保証人に負わせるものであるから信義則上許されないとして、未払賃料を一定期間に制限されることがあります。

 

 いつまでの期間の未払賃料の請求なら信義則上許されるかは、ケースバイケースですが、連帯保証人としては、2回目の契約更新時期までの未払賃料は覚悟した方がいいかもしれません(平成25年1月31日大阪地裁判決)。

 一方で、賃貸借契約の特約上、未払賃料3か月分で大家さんの連帯保証人に対する通知義務などが定められているのであれば、裁判所は、その定められている期間とプラスα程度の期間の未払賃料の請求しか許容しないものと予測されます。

 

賃借人本人が死亡しても連帯保証は継続する

 

 話は変わって、賃借人本人が死亡した場合はどうでしょうか。

 連帯保証契約は、保証人と主債務者の人的信頼を基礎にして、保証人が主債務者のために保証する側面があるかと思います。

 

 この観点からすれば、主債務者である賃借人本人が死亡して相続が発生した場合、賃借人の相続人と主債務者の間の信頼関係は、ないものと見られますが、判例では、賃借人が死亡したとしても、保証契約が終了するものではないとされています(昭和12年6月15日大審院判決)。

 したがって、上述した特別解約権行使の余地はあると見られますが、賃借人が死亡して相続が発生した後も、賃貸借契約に基づき発生する債務の保証義務は残ると考えるべきです。

 

未払賃料の時効について

 

 未払賃料の時効は5年です。

 未払賃料は、毎月発生する定期給付債権ですので、その消滅時効は、各月の家賃の支払義務が発生してから5年間、時効を中断する事由が生じなければ、各月ごとに消滅時効にかかります。

 

連帯保証人の責任を緩和する改正


 このとおり、賃貸借契約の連帯保証人の責任は極めて重くなって、社会問題ともなっていました。

 そこで、令和2年4月1日に施行される改正民法では、連帯保証人を大きく保護する改正が行われています。

 

 内容については、後編に譲りますので、ご興味がございましたら、そちらもご閲読下さい。

 

※賃貸借契約をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
 併せて、ご閲覧下さい。

 

「大家さんの変更と賃貸借契約」

「建物明渡判決を確実に執行する‐占有移転禁止の仮処分」

「未払賃料、連帯保証人にどこまで請求できる? 後編」

「老朽化等による立退料バトルの実際」

 

 

2019年09月06日