相続放棄をした後はどうなるのか?

 

 多額の債務を負ったご親族が亡くなって、さて法定相続人になった場合、何を考えるか。

 一般的には、相続放棄の手続を取って、債務を引き継がないようにするというのが、すぐに思い当たるのではないでしょうか。

 では、相続放棄とは、そもそもどんな効果があり、自分が放棄したら、誰が引き継ぐのかとか、相続財産をそのまま放っておいていいかなど、そこまで考えたことはないのではないでしょうか。

 


相続放棄の効果とは

 

 相続放棄の効果については、民法第939条が記載しています。

 「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」

 このように、相続放棄した人は、相続開始時に遡って、元から相続人でなかったことになります。

 例を示すと、相続人が子ども3人だけの場合、法定相続分は通常3分の1ずつですが、一人が放棄をすると、子ども2人が2分の1ずつ法定相続することになります。 

 

自分の子どもは相続放棄する必要がありません 

 

 相続放棄は、代襲相続(被相続人の子が既に死んでいた場合に、その死んでいた子の子どもが相続すること)しないことを意味します。

 

 よく勘違いをされて、自分が相続放棄をしても自分の子どもに借金の相続が回るのではないのかと不安になられる方もいらっしゃいますが、自分の子どもに相続がいくことはありません。

 

 なぜなら、民法第887条2項は、代襲相続の要件として、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき」としているからです。

 相続放棄の場合は、当然、相続の開始時において、被相続人の子は生存していますので、相続の開始以前に死亡したという要件を満たさず、被相続人の子どもの子ども(孫)が代襲相続するということになはりません。

 

 一方で、他国の家族法上では、相続放棄すると自分の子どもに回るというのもあり、身近なところでは、大韓民国の法律がこれにあたります。

 在日の韓国人が死亡した場合の相続に関する準拠法は、日本国内にあっても、大韓民国の法律ですので、この場合、相続放棄をした人の子どもも相続を放棄をしないと大変なことになります。

 

相続は次順位へ

 

 配偶者は別として、相続人には順位があります。

 第1順位が子ども(正確には直系卑属)、第2順位が親(正確には直系尊属)、第3順位が兄弟姉妹です。

 先順位の法定相続人が全員相続放棄をした場合、相続が次順位に移ります。

 

 被相続人の子どもが相続放棄した場合、次順位は被相続人の親ですが、通常、被相続人の親も亡くなっていることが多いです。

 このため、よく起こり得るのは、疎遠になっている被相続人の兄弟姉妹に相続が飛んでしまうことです。

 

 多額の債務を負いたくないのは、兄弟姉妹も同じだと思うので、順位が回ってきたこれらの兄弟姉妹も、自分に順位が回ってきたことを知った日から3か月以内に相続放棄をしなければなりません。

 

 ところで、先順位の相続人がいる段階で、上記を見越して、次順位の相続人が相続放棄をできれば便利ですし、安心のように思えます。

 しかし、これはできません。

 相続放棄は自らが相続人にならないと(つまり、順位が回ってこないと)行うことができないからです。

 なんとも不便なものです。

 

相続放棄したら全ての義務を負わないか

 

 相続放棄して、多額の債務も負わなくなって、これで一安心と思えますが、相続放棄をした者が相続財産に対して管理義務を負う場合があります。

 民法第940条1項です。


 この条文は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」という内容です。

 大体のことは、読めばわかって頂けると思いますが、相続人が相続放棄をした場合でも、次の相続人等が管理を始められるまでの間、相続財産を管理する義務を負うと定めたものです。


 特に、相続財産の中に、不動産や自動車といったものが含まれていると気を遣います。

 なぜなら、建物の倒壊や火災、車両の盗難による事故の恐れが残るからです。事故が起これば、損害賠償義務を負うかもしれません。
 民法としては、これらについて、相続放棄をした者に管理義務を負わせているということですので、次順位に管理を引き継ぐまで、万一のリスクは残ります。

 

 仮に、自分が最後の順位だとすれば、相続放棄をしても、次の相続人がいないということになりますので、引継ぎ手そのものが存在しません。

 このような場合、前のブログで説明したような相続財産管理人の選任の申立をして、選任された相続財産管理人に引き継げばよいというのが正しいアドバイスになるのですが、これ自体、多額の予納金を裁判所に納めるよう求められることがあり、非常にハードルが高くなっています。

 

 相続放棄した人に、ここまでの責任を負わすべきものなのかという点からすれば、批判も多い条文です。

 

※相続・遺産分割をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。 

 併せて、ご閲覧下さい。

 

「被相続人の生前に相続放棄はできません。」

「お墓や仏壇は相続と別になります」

「自筆の遺言を見つけたら、必ず検認を」

「相続人のいない相続財産はどこへいく?」

「相続での使途不明金の争い方は?」

「兄弟姉妹の遺留分はありません」

「祖父母の相続放棄検討中に親が亡くなったら‐再転相続」

「賃貸マンション相続をめぐる諸問題」

 

 

2019年03月29日