
お子さん達が通われている学校や幼稚園で、不幸にも事故に遭われるということがあります。
学校側では、安全管理に努めているところですが、こういった事故が後を絶ちません。
学校等は必ずしも安全な場所ではなく、事故に遭う危険性は、意外なほど多くの学校活動に内在しています。
例えば、体育の授業における取組(水泳の授業など)、クラブ活動、課外活動(遠足)、生徒間の人間関係、教師による生徒への指導などなど、加害者の故意、過失を問わず、お子さんが事故に遭われる場面が想定されます。
実際、学校の活動において事故が起きた場合、被害を受けて怪我などをした生徒は、どのようなことができるのでしょうか。

まず災害共済給付が受けられる
お子さんを学校に通わせている保護者の方であれば、ご存知かもしれませんが、学校管理下で生じた生徒の負傷、疾病、障害及び死亡に対して、大部分の方は、独立行政法人日本スポーツ振興センターの「災害共済給付」制度の適用対象となります。
この制度は、医療費、障害見舞金、死亡見舞金の支給がされ、学校の責任の有無を問わず支給が受けられる点が特徴です。
学校等は、まず、この給付を受けられるように対応してくれるはずです。
災害共済給付だけでは十分な補償と言えない
上記の災害共済給付は、医療費や見舞金部分の支給であり、通常の損害賠償事案の全損害項目を補填してくれるものではありません。
したがって、災害共済給付だけでは、実際に得るべき計算上の損害総額に満たない場合、被害者は、その不足額を管理責任者たる学校や加害者当人に対し請求しなければ、十分な損害の回復を図れません。
私立学校と公立の学校の違い
学校や加害者を相手取ると言っても、学校が私立と国公立では、訴え方が異なります。
私立の方は、学校を運営するのが個々の学校法人ですので、この学校法人を相手とします。
加害者が教師であれば、態様を見て、悪質などの事情があれば、当該教師個人も相手に含めることがあります。
国公立の場合は、国立であれば、国、又は地方公共団体が相手方となります。
ところで、国公立で教師が加害者である場合、この教師も相手方に含められると思いがちです。
しかし、国家賠償法第1条1項は、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責めに任ずる。」としています。
そして、昭和52年10月25日最高裁判決も、「国又は公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責任を負わないと解するのが、相当」としております。
したがって、国公立学校の公務員たる教師個人に損害賠償請求をすることはできません。
加害者が生徒の場合はどうなるか
加害者も生徒である場合、当該生徒を相手方とすることを考えます。
当該生徒が未成年であれば、その法定代理人たる親が対応をすることになります。
しかし、親と子どもは別人格ですので、子どもが負う損害賠償責任を親が直ちに負うものではありません。
この点、親が未熟な子どもの監督責任を怠って、加害行為がなされたと見られる場合、監督者たる親権者自身も相手方とし、民法第709条の不法行為に基づく損害賠償義務を負わせることが可能です。
ただ、子どもの精神年齢につれて、親の監督に限界が出てきますので、子どもの年齢が高いほど、親の監督責任は認められにくくなります。
加害生徒が12歳くらいより下の年齢である場合、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとみなされるので、加害生徒自身は、民事上の不法行為責任を負いません(民法第712条)。
この場合は、民法第714条に基づき、監督義務者たる親権者に損害賠償責任を追及できます。
親権者側は、監督義務を怠らなかったという立証ができれば、この責任を免れることになります。
ちなみに、民法第709条で親権者に請求する前者と民法第714条で親権者に請求する後者における監督義務に違いはあるのかということですが、民法第709条では、請求する方に立証責任があり、民法第714条では、請求されている方に立証責任があるということになりますので、被害者の立場としては、前者の方が立証責任の点で、ハードルが上がっているということになります。
もちろん、加害生徒による事故についても、学校側の安全配慮義務違反や指導監督義務違反のようなものが見られ、学校にも責任があれば、学校に対して損害賠償請求することが可能です。
相手方の支払能力について
損害賠償請求が認められるとしても、相手方の支払能力の問題があります。
学校に損害賠償が認められる場合、私立は自らの保険に加入しているのが一般でしょうし、国公立は公的機関ですので、認められた損害賠償金が支払われないという事態は想定できません。
しかし、加害者が生徒であり、学校側に責任追及ができない結論となるケースの場合、相手方は、子どもとその親権者であり、支払能力について不安が生じます。
この点、加害者生徒の親権者が個人賠償責任保険に加入していると、同居の子どもによる損害賠償義務にも対応可能です。
加害生徒に責任追及する場合、相手方のこの保険の加入の有無による影響は大きいかと思います。
日常生活の弁護士費用の特約がセットされているか確認を
一方、被害を受けた生徒の側で損害賠償請求を行うにあたり、弁護士に依頼する場合、依頼するための弁護士費用の負担が生じます。
不法行為による損害賠償請求の訴訟が判決に至った場合は、認められた額の1割の弁護士費用を相手方に請求できますが、これで実際にかかった弁護士費用を補てんできるわけではありません。
これについては、日常生活における事故被害を受けた側が弁護士に依頼する際に発生する費用を補てんしてくれるという保険(日常生活弁護士費用特約など)があり、加入されている自動車保険や傷害保険などに特約としてセットされている場合があります。
一度、ご加入の保険証券類や代理店に問い合わせをしてみてもよいかもしれません。
※学校生活をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。