ネット上の誹謗・中傷の解決に地域格差

 

 ネット上での誹謗・中傷トラブルが生じた場合の民事的な対処方法や具体的な手順については、「ネットで誹謗・中傷されたときは?」のところで、くわしく述べさせていただきました。

 

 加害者がハッキリ特定できる事案の場合、事件の解決方法はかなりシンプルです。

 次の2点が中心になるからです。

 

・問題となっている投稿の削除を行うこと

・投稿者である加害者に対し損害賠償請求をすること

 

 削除については、加害者本人に求めることができ、加害者が自発的に削除しないようであれば、「サイト管理者」やサイトのデータが保存されている「サーバーの管理者」に削除要請をします。

 削除してもらえないようであれば、削除の仮処分などを起こすことが想定されます。

 

 加害者への損害賠償請求に関しては、素性がつかまっていますので(住所氏名が特定可能ということ)、任意の交渉を試み、これができなければ、訴訟の申立を行うことになるでしょう。

 

加害者不特定の場合の手続の問題

 

 一方で、投稿者が匿名で加害者がわからない場合、いろいろと行わなければならない手順や時間的制約があるのは、前記ブログ記事でご説明したところです。

 要約すると、次のような問題が出てきます。

 

・IPアドレスやタイムスタンプの開示を求めるための仮処分申立が必要であること

・IPアドレスやタイムスタンプを基にした加害者の住所氏名の情報開示請求訴訟が必要となること

・IPアドレスやタイムスタンプと加害者の住所氏名を紐づけできるアクセスログの情報が3か月程度で消去されてしまうこと

・場合によってはアクセスログを保存してもらうための仮処分が必要であること

 

 なお、仮処分は、通常の訴訟前に細かい審理を経ずに被害者の言い分を実現する手続なので、法務局に担保金を積むことも求められます。

 この担保金の額も結構バカにならない額を求められます。

 いずれ返還されるものとは言え、この点でも金銭的な負担が大きくなってきます。

 

発信者情報開示請求やアクセスログ保存の仮処分の管轄

 

 これに加え、加害者を特定しなければならない事案では、裁判の土地管轄により、一定の地域格差が生じることが懸念されます。

 

 管轄とは、裁判を行う場合に、申立ができる裁判所を決めるものです。

 管轄については、「裁判と管轄」のところで、簡単に触れさせていただきました。

 

 問題となるのは、IPアドレスやタイムスタンプといった発信者情報の開示やアクセスログの保存を求めるための仮処分の管轄です。

 これらの仮処分の管轄については、相手方であるサイト管理者等の主たる事務所又は営業所のある場所のみが管轄とされます。

 被害者の住所地を管轄にできるわけではありません。

 

 ツイッター、Facebookなどの海外の法人が運営しているサイトの場合、管轄はいっそうシビアです。

 日本国内に営業所を有していれば、そこになりますが(あったとしても東京だけということが多いと思います。)、そうでなければ、東京都千代田区に管轄があるとして、東京地方裁判所でしか仮処分の申立ができません。

 

 サイト管理者等の主たる事務所又は営業所は大都市圏、特に東京に限られることが多いかと思いますので、これらの管轄上の制限により、申立ができる裁判所の場所が東京に集中します。

 

管轄の縛りが地域格差に

 

 仮処分の申立自体は、郵送で行えますが、仮処分手続は、申立をした後に、申立をした側の面談や双方の審尋を裁判所で行うのが原則です。

 

 したがって、大部分の管轄が東京となっているため、地方の被害者が当該地方の弁護士に依頼して、こういった仮処分の申し立てをした場合、代理人が東京まで足を運ばなければいけないという事態が生じかねません。

 こうなると代理人は一日仕事となりますので、代理人の旅費日当を依頼者が負担せねばなりません。

 仮処分が認められるとしても、供託金を担保する法務局も東京になってしまいますので、この点での不便感も否めません。

 

 アクセスログの保存期間が限られている中、代理人が遠方への移動を求められるのは、費用や時間において二重の負担を被害者に強いるものですので、こういったことが実質的に地域格差を生む要因だと考えています。

 

削除請求の仮処分の管轄は被害者住所地

 

 ちなみに、冒頭で述べた削除請求の仮処分の管轄は不法行為地とされておりますので、被害者の住所地を管轄する裁判所にて申立をすることが可能です。

 当然、加害者に対する損害賠償請求も同様です。

 

 IPアドレスやタイムスタンプを基にした加害者の住所氏名の情報開示請求訴訟については、原則、インターネットサービスプロバイダの主たる事務所又は営業所の場所を管轄としますが、申立内容を工夫することによって、被害者住所地の裁判所への申立も可能なようです。

 

地域的格差をなくすために

 

 こういう状況から、インターネットの誹謗・中傷関連の事件処理をできる弁護士が関東圏に集中しますし、その他地域の被害者は、これらの弁護士のところへ頼らざるを得ません。

 関東圏の先生方は、大変有意義な仕事をされているものと思いますが、地方在住で依頼する被害者側として、相談にアクセスするには、非常にハードルが上がっているのではないかと感じています。


 ネット上の誹謗・中傷の被害者は日本のどこでも生じ得るのに、管轄を一部に限定してしまって、被害者の解決方針に地域格差を生むのは、公平の理念に反すると思います。

 法制度上、改正で対応できる範囲のものであれば、管轄の問題をクリアさせるなり、仮処分手続にこだわらない発信者情報開示ができるようにするなり、国としても、何らかの再考が求められるのではないでしょうか。

 

※インターネット上の誹謗・中傷などのトラブルをめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
 併せて、ご閲覧下さい。


 「ネットで誹謗・中傷されたときは?」

 「ツイッターのリツイートをめぐる怖い判例」

 「お店に対する投稿に損害賠償請求できる?」

 

 

2018年12月05日