日本においては、少子化とともに高齢者の割合が年々大きくなっています。
我々、弁護士の業務においても、判断力の低下した高齢者の方の後見業務や親族後見人の監督業務などが一定の割合を有するようになってきました。
高齢者の増加に応じるように、平成17年に「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「高齢者虐待防止法」といいます。)が定められ、高齢者の保護規定を設けていますが、この高齢者虐待防止法では、高齢者に対する虐待の種類を示しております。
一般的には、体に危害を加えること=虐待と捉えがちですが、実際のところ、虐待の種類は、各種あり、意外と現場の方でも、直ちに想起し難いこともあります。
虐待の種類
高齢者虐待防止法第2条4項に示されている虐待の種類は簡略に説明すると次のようなものになります。
①身体的虐待
身体に怪我をさせたり、怪我をさせるような暴力を加えるもの
②ネグレクト
衰弱させるような減食、放置など、養護する者が取るべき保護責任を取らないもの
③心理的虐待
著しい暴言を浴びせるなど、著しく心理的外傷を加える言動を行うもの
④性的虐待
わいせつ行為をしたり、させたりするもの
⑤経済的虐待
養護者又は高齢者の親族が財産を不当に処分したり、不当に高齢者から利得を得たりするもの
親族による経済的虐待について
上述した虐待の態様中、①~④は、一般の方でも、問題のある事態だとイメージしやすいのではないでしょうか。
このため、これらの事態が発生した場合、発見者が市町村の担当部署に通報する等して、事実が露見することが多いのではないかと思います。
しかし、⑤の経済的虐待については、必ずしも、そういうわけにもいきません。
財産を管理しているのが親族で、その親族が自分のために、高齢者の財産を使い込んでいたとしても、これを直ちに、虐待であるとして捉えるのは一般的には浸透していないのではないかと思われるからです。
親族の経済的虐待が露見する経緯で、最も、大きい事由は、福祉サービスなどの利用料の支払が滞っているといったところからなのですが、福祉サービス提供者側も、研修が行き届いていないと、親族による財産管理不足という認識に止まり、経済的虐待という発想にまでいきつきません。
こういったことから、親族による高齢者の経済的虐待は、見落とされるか、見逃されるかしていることが多いのではないかと推測されます。
虐待の発見者には通報義務や通報努力義務が
高齢者虐待防止法第7条1項は、「養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。」とし、高齢者の虐待を発見した人は、市町村に通報するよう義務付けをしています。
上記条項は、「生命又は身体に重大な危険が生じている場合」と限定しているため、通報義務は、この範囲に止まりますが、同条2項は、「前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。」としておりますので、その他の虐待事例においても、通報努力をする義務は定められていることになります。
経済的虐待は、上記のとおり、努力義務に止まりますが、経済的虐待も正式な虐待類型の一つです。
本来、高齢者の生活に支出すべき金員がないがしろにされている状態と言っていいでしょう。
したがって、経済的な虐待を見つけた場合、通報等を行い、行政にしかるべき対処をしてもらうべきです。
特に、福祉サービス提供事業者においては、親族の経済的虐待を発見しやすい立場にありますから、高齢者の保護のために、毅然と通報の努力を取るべきだと思います。