
私立高校や私立大学などで、運動に秀でている学生を自校に呼び込む制度で、「スポーツ特待生」といった制度があります。
野球、サッカー、テニスなど、大きな大会で活躍できる生徒を自校に抱えることで、ある意味、広告宣伝効果が発生し、志願者を増やす呼び水にするものだと言えます。
このようなスポーツ特待生制度、特待生として入学する生徒にとっても、入学金、学費、部活動費といったものの支払がなかったりするというメリットがありますので、生徒と所属する部活動間が良好な関係にあれば、ウィンウインの関係を保てるものと言えます。
しかし、この関係、必ずしも良好に保たれず、トラブルとなることも多いのです。

退部を考えはじめる要因
退部を考えはじめる要因というのは、様々だと思います。
自発的なものであれば、周りが優秀すぎて、自分の能力に疑問・限界を感じるというものもあるでしょう。
怪我やスランプにより、十分な力が発揮できなくなったというものもあるでしょう。
一方で、自らに責めがないものとしては、部活動でのメンバーとの人間関係の悪化や阻害、監督・コーチといった指導者によるパワハラ・セクハラが原因というものもあります。
退部とともに生じる金銭の問題
では、退部をするとした場合、特待生は、どのような不利益を受けるのでしょうか。
まず、退学させられるのではないかという問題がありますが、基本的に、退部=退学扱いをされることはないと考えてよいでしょう。
現実的な話として、特待生が退部をした場合、最もダメージを受けるのは、経済的な問題と精神的な問題の2つになると見られます。
前者の経済的な問題としては、学費の負担が考えられます。
特待生であれば免除されてきた学費の支払が発生することになります。
また、過去の入学金や学費についても、そもそも、免除でなかった場合もあります。
これについては、入学時などに学校から説明を受けた書面や契約に関する書類などを調べて、各学校における制度の内容をよく確認する必要があります。
免除でなければ、過去の分についても、支払を求められる場合も想定されます。
裕福なご家庭であればよいですが、そうでないとすれば、この経済的負担の発生が、退部のみならず、退学までを検討させる一つの要因となります。
退部から退学にながれやすいこと
特待生の退部は、精神的なダメージも大きいと言われます。
スポーツに才能があるとして入学したにも関わらず、退部する結果となれば、周囲からの視線が非常に気になってしまう方もいます。
また、学校によっては、特待生のみで編成したクラスなどに組み込まれていることもあり、退部した生徒一人が浮いてしまうことがあります。
このため、上述した経済的な問題のみならず、当該生徒の精神的な問題も大きく絡んできて、退部をした特待生が退部に止まらず、退学までするというケースも多いようです。

監督・コーチに対し服従関係になりやすい
特待生を抱える部活動の指導者としては、部の活躍や好成績が至上命題となりやすいですから、自ずから、過度の指導に至ってしまうこともあります。
一方で、特待生は、指導者の覚えが悪くなり、部に居づらくなり、退部せざるを得ない状況となることを避けようとします。
退部すると、上述した経済的問題や精神的問題が重くのしかかり、退学までが頭にちらつくからです。
このため、特待生は、指導者の度を超えた指導、パワハラ、セクハラなどを甘んじて受け入れざるを得ず、絶対的に近い服従関係に陥ることも考えられます。
最近、世間で耳目を騒がせている、日本大学のアメリカンフットボール部の事件には、潜在的に、こういった特待生と部活動の問題が潜んでいたりするのではないでしょうか。
何ができるのか
退部した結果、学校とトラブルになった場合、何ができるのでしょうか。
自発的な要因によって退部した場合は、入学時の契約内容に従い、支払うべき学費等を支払わざるを得ないでしょう。
返還を求められてしまう制度の場合は、奨学金を検討したり、学校側と話し合い、分割等での返還の交渉をしたりしていくしかないと思われます。
しかし、指導者の問題、部活動のメンバーからのいじめなどにより、退部を余儀なくされる場合は、争う余地があるのではないかと考えます。
このような自己の責めに帰すべきでない理由で退部した場合は、自発的退部の場合と同様の負担を負わすべきでないと契約解釈すべきと思われますし、信義則上も、そのように理解されるのではないかと考えるからです。
このような事例の場合は、生徒側として、不法行為による損害賠償請求の余地もあり、精神的苦痛の慰謝料や身体的傷害の治療費等の損害賠償をすることも考えられます。
ただ、部活動内や学校内におけるトラブルは、密室や閉鎖的空間で生じることも多く、訴えを起こす側でも、ある程度の客観的証拠を残していく努力が必要となる点で、非常に難しい側面を有すると言えます。
※学校をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。