住居を賃借されている方もいらっしゃるかと思います。
この場合、意外とよく起こり得るのは、貸主、いわゆる大家さんが変更することで、そういう通知に触れることがある方も多いのではないでしょうか。
いざ、そういった通知を受けても、法律的にどうなるのかわからず、戸惑われた方の相談もよく受けます。
大家さんが変更するという話になった場合、今まで締結していた賃貸借契約やその契約に基づく権利義務はどうなるのでしょうか。
大家さんが変更する2大原因
大家さんが変更する原因としては、大きく次の2つが挙げられます。
まず、一つは、賃借物件の所有者が売買で変更した場合(オーナーチェンジ)です。
もう一つは、賃借物件の所有者が亡くなり、相続が発生した場合です。
貸主の地位が移転
いずれの場合も、貸主の地位は、移転します。
相続の場合であれば、債権債務を相続人が相続しますので、当然に、相続人が貸主となり、従前の賃貸借契約の権利義務を引継ぎます。
売買の場合でも、新しい所有権者へと貸主の地位は移転します。
実務では、これらの新しい貸主から、賃借人へ通知を送り、貸主が変更した旨の報告と併せて、賃料の支払先の変更の連絡がなされることが多いかと思われます。
敷金や保証金の支払義務も移転します
上記の原因により、貸主が変更した場合、敷金や保証金の返還義務は、新しい貸主に移転することになります。
相続の場合であれば、当然に相続人らに引き継がれます。
ちなみに、相続人が複数いる場合、敷金や保証金の返還義務は複数の相続人の不可分債務となるのが裁判例(昭和54年9月28日大阪高裁判決)です。通常の金銭債権のように、相続人ごとに均等分割されません。
したがって、賃借人は、退去時に、「複数の相続人の誰に対しても、全額の」敷金・保証金返還請求権を行使することができます(もちろん、金額全額の回収ができた時点で、その額以上を別の者に請求できるものではありません。)。
売買によるオーナーチェンジの場合も、最高裁判例で次のように判示しています。
「建物賃貸借契約において該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があつた場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、賃借人の旧賃貸人に対する未払賃料債務があればその弁済としてこれに当然充当され、その限度において敷金返還請求権は消滅し、残額についてのみその権利義務関係が新賃貸人に承継されるものと解すべきである」(昭和44年7月17日最高裁判決)。
この判例により、新しい所有者となった貸主は、前所有者が未収の賃料を相殺した後の残敷金・保証金の返還義務を引き継ぐことになりますので、賃借人は、退去時、「新貸主」に敷金・保証金の返還請求を行うことになります。
再契約は不要
上記の原因により、貸主が変更した場合、従前からの賃貸借契約は有効です。
このため、賃借人は、従前からの賃貸借契約に基づき、賃借を継続できますので、再契約をする必要はありません。
新貸主から再契約に更新することを求められますが、これを突っぱねることで不利益に扱われることはありません。
仮に、再契約に応じる場合は、従前の賃貸借契約から不利にならないかを慎重に検討する必要があります。
例外(抵当権設定後の賃借人と競売による賃借物件の買受人)
例外ですが、貸主の変更する場合には、競売により買受人が新所有者になることがあります。
アパートやマンションの大家は、建物を建てる際に、銀行などの金融機関から融資を受けていることも多く、金融機関が賃借物件に抵当権を設定していることも多くあります。
大家さんが金融機関への借金を払えず、抵当権を実行して賃借物件が競売された場合、住んでいる人の賃借権が新しい買受人に対抗できるかどうかは、登記の対抗要件の問題になり、「抵当権設定日より前に賃借権が発生していたかどうか」で結論が変わります。
抵当権より前に賃借(鍵などの引渡を受けていたかどうか。)していれば、賃借人は、対抗できますが、後であれば、対抗できず、買受人が裁判所に競売代金を支払った日から6か月以内(明渡の猶予があります。)に明け渡さなければなりません(民法第395条1項)。
また、抵当権より後の賃借権の場合、敷金・保証金の返還を求めることもできません。
建物を借りる際、宅地建物取引業者の方は、賃貸借契約時の重要事項説明で、賃借物件の権利関係の記載内容(登記事項証明書)を説明する義務がありますのて、抵当権が設定されているかどうかの話があるはずです。
そして、借りる人は、説明を受けて、重要事項説明書に署名捺印したということになります。
適当に聞き流さないで、ちゃんと聞いておかないと、後で知らなかったでは済まされません。
※賃貸借契約をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。