医師が注意すべき転医義務

 お医者さんや歯科医師をされていると、患者さんの診療をしている中で、専門外の病気が見つかったりすることはよくあるかと思います。

 また、治療を行うにあたって、ご自身の医院の施設などでは対応できない病気やけがを患った患者さんがいらっしゃることもあります。

 

 このような場合、転医(患者さんをより適切な病院に紹介する)する義務が医師の側に生じます。

 

 

転医義務の法令

 

 転医義務に関して、医療法第1条の4の第3項は、「医療提供施設において診療に従事する医師及び歯科医師は、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介し、その診療に必要な限度において医療を受ける者の診療又は調剤に関する情報を他の医療提供施設において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯科医師又は薬剤師に提供し、及びその他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と定めています。

 

 また、保険医療期間及び保険医療養担当規則第16条は、「保険医は、患者の疾病又は負傷が自己の専門外にわたるものであるとき、又はその診療について疑義があるときは、他の保険医療機関へ転医させ、又は他の保険医の対診を求める等診療について適切な措置を講じなければならない。」と定めています。


   

 これらの条文等によれば、医師や歯科医師は、自らの医院で対応の困難な患者について、転医をする法的義務があるものと見られます。

 

 したがって、例えば、重大な疾病をもった患者の診察の結果、自らの医院では対応が困難であると判断した場合、医師の方で、適切に転医措置を取らず、後日、当該患者の病状に悪影響が出たとすると、転医措置を取らなかった医師が当該患者に対し損害賠償義務を負うおそれがあります。


転医すれば、それで足りるのか

 

 それでは、端的に、転医先を紹介すれば、上述した損害賠償義務を負わないのか?と言えば、直ちにそうとも言い切れません。

 

 確かに、転医を行えば、転医先の医院が患者の診察や治療を行い、その中で、適切な治療が行われず、当該患者の病状に悪影響が出たとしても、診察や治療を行った医院が第一に責任を問われるべきものではないかと思われるでしょう。

 

 しかし、転医については、他の医療施設を紹介すればいいというものでなく、次のような義務を尽くしておくことが必要であると考えられています。

 

 まず、転医先が適切な医療設備や専門医のいる病院であることです。

 そもそも、転医する理由が、自らの医院の設備や専門性から対応できないということですから、転医先を紹介するにも、その転医先自体、設備や専門性がないと話になりません。

 

 また、転医先の患者受け入れ可否や安全に搬送できるかの確認です。

 特に、速やかな処置を要する状況などの場合、患者の受け入れができない病院を紹介すれば、致命的なことになりかねません。


 更に、特に重要とおもわれるのが、転医先の医師に自らの診察経過や病状について説明をすることです。

 上述したとおり、速やかな処置を要する場合、転医先も、前医の治療経過や病状説明を受けることで、速やかな対処をとれます。

 これがなかったあまりに、速やかに必要であった手術が受けなれなかったということであれば、患者にとって、致命的なことになりかねません。

 

転医における義務を尽くしておかないと


 転医先を紹介したとしても、上述したような転医における義務を尽くしておかなかった場合、患者が適切な治療を受けられず、死亡したり、病状が重篤化したりなどすると、当該患者側から損害賠償を求められるおそれがあります。

 

 実際、転医先への説明義務が尽くされなかったため、転医先で適切な医療を受けられなかったとして、前医の転医先への説明義務違反が認められた事例(平成8年9月10日大阪高等裁判所判決)があります。

 

 また、転医先に必要な医療設備が備わっておらず、適切な診療が受けられず損害を被ったとして、前医に転医先の選択における注意義務違反が認められた事例(平成12年1月27日広島高等裁判所岡山支部判決)もございます。

 

 更に、診察や治療をした患者の病状の見定めを誤り、自院での治療を長引かし、適切な転医先に転医せず、患者に重大な後遺障害が残ったとして、転医そのものの義務を怠ったとされた事例(平成15年11月11日最高裁判決)もあります。


 医師や歯科医師は、転医紹介といえども、気を抜けません。

 人の命や健康を預かる崇高な職務と、それに伴う厳粛な義務を負う医師の皆様には、つくづく感謝の念を禁じ得ません。

 

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 「医療法人の出資持分払戻請求とは」

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2023年07月12日