譲渡制限のある株式を譲渡するには?

 会社の経営に携わっていたり、役員として長年功労されたりした方は、当該会社の株式自体を保有していることも多いかと思います。

 そのような方が保有している株式は、中小企業であったりすると、定款などで譲渡制限がかけられていることが通常ではないでしょうか。

 

 

 株式については、資産価値を有するものですから、本来、譲渡して換価することが許されるべきものです。

 その最たるものは、上場株式などであり、株価を見て、売買すること(投資)を目的とした保有もよく見られます。

 

 しかし、中小規模の会社の場合、当初の株主から第三者に株式がわたることにより、人的関係の乏しい人が会社に対して口出しをすることが好ましくないことが考えられます。

 このため、株式の譲渡について定款で制限をかければ、譲渡について、会社の承認がない限り、会社に対しては譲渡を主張できないということにしました。

 こういった株式を譲渡制限株式といいます。

 

譲渡制限株式を譲渡するには

 

 それでは、譲渡制限株式を保有する者が第三者に当該株式を譲渡することとなった場合、通常、どのようにすればいいでしょうか。

 

 上述したとおり会社の承認が必要となるなのですが、この承認の手続は、特に定めのない限り、取締役会設置会社では、取締役会で承認決議をしてもらうこととなります(会社法第139条1項)。

 

 したがって、譲渡を希望する株主は、会社に対し、①譲渡する株式数、②譲受する者の氏名、③不承認の場合、当該会社か会社の指定する買取人が買い取るよう請求するときはその旨を記載した譲渡承認請求をすることになります(会社法136条及び同法138条1号)。

 

 当然ですが、取締役会の決議においては、譲渡承認請求をした株主が取締役であると、当該取締役は利害関係を有するため、議決権行使ができません。

 

 譲渡承認請求に対し、会社の取締役会決議で承認された場合はよいのですが、承認されない場合、期間制限に注意が必要です。

 

 と言いますのも、会社は、譲渡承認請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定められている場合もあります。)以内に、譲渡承認請求者に対し、譲渡を承認しないという決定内容を通知しなければ、会社は譲渡承認したものとみなされるからです(会社法145条1号)。

 譲渡承認請求時において、上記③の申し入れもされていた場合、会社はそれに対する回答も必要となります。

 

会社が買い取るとした場合

 

 譲渡を不承認とし、会社が自ら買い取るとの判断をした場合、会社は、株主総会を開いて、特別決議により、会社が買い取ることとその買取株式数を承認してもらわなければなりません。

 当然ですが、当該決議においては、譲渡承認請求をした株主は利害関係を有するため、議決権行使ができません。

 

 株主総会の特別決議で承認されたら、会社は、譲渡制限株式を買い取ることとその株式数について、譲渡承認請求者に対し、通知(買取通知)するとともに、1株当たりの純資産額に購入する譲渡制限株式数を乗じて算出した額を本店所在地の供託所に供託した旨を証する書面を交付する必要があります。

 

 上記の買取通知と供託を証する書面の交付は、譲渡不承認の通知から40日以内に行わないと、当初の譲渡承認請求の内容が実現されてしまいます(会社法第145条2号、同3号及び会社法施行規則第26条1項)。

 したがって、譲渡不承認の取締役会決議を終えて、不承認の通知をしてから、総会の招集をし、総会決議を経て、供託まで、40日で済ませる必要があり、タイトなスケジュールを強いられます。

 

買取人を指定する場合

 

 会社が別の買取人を指定する場合は、通常、当該会社の取締役会決議で、指定買取人を指定しなければなりません。

 そして、指定を受けた買取人は、買い取る株式数と指定を受けたことを譲渡承認請求者に対して通知(買取通知)しなければなりません。

 また、会社が買い取る場合と同様、譲渡承認請求者に対し、この買取通知のほかに供託を証する書面も交付しなければなりません。

 

 買取人を指定する場合の大きな問題は、上記買取通知と供託を証する書面の交付に要する期間が、会社の譲渡不承認の通知から、10日以内と定められていることです(会社法第145条2号、同3号)。

 この期間を過ぎてしまうと、当初の譲渡承認請求が認められてしまいますので、非常にタイトなスケジュールを強いられるものであると言えます。

 

株券発効会社の場合の譲渡承認請求者の供託

 

 株券発効会社である場合、譲渡承認請求者は、供託を証する書面の交付を受けてから1週間以内に会社の本店所在地の供託所に株券を供託し、その旨を会社や指定買取人に対し通知しなければなりません(会社法第141条3項及び同法第142条3項)。

 これを怠ると、会社や指定買取人は、今回の売買契約を解除することができるとなっています(会社法第141条4項及び同法第142条4項)。

 

売買価格はいくらか?

 

 上記の流れで会社や指定買取人が譲渡制限株式を買い取ることとなった場合、いくらで売買するかは、原則、当事者間の協議で定めます(会社法第144条1項及び同7項)。

 しかし、対立関係のある当事者のことも多く、協議をしても価格が定まらなかったり、協議自体も行われなかったりします。

 

 この場合、当事者らのいずれかは、上述した会社や指定買取人の譲渡承認請求者に対する買取通知の日から20日以内に、裁判所に対して、売買価格決定を求める申し立てをすることができます(会社法第144条2項及び同7項)。

 

 この申立てがされた場合、裁判所において、会社の資産状態やその他一切の事情を考慮して売買価格が決定されます(会社法第144条3項及び同7項)。

 

 なお、上記の買取通知の日から20日以内に売買価格決定の申立がなされない場合、供託された金額そのものが売買価格とされます(会社法第144条5項及び同7項)。

 

 したがって、供託された金額よりも低い額が適正な額だと会社が考えれば、会社が申立をするでしょうし、高い額が適正な額だと譲渡承認請求者が考えれば、譲渡承認請求者が申立をするということになるでしょう。

 

売買代金の支払をしないと・・・

 

 上記で定まった売買金額の支払を会社や買取指定人がしない場合、当初の譲渡承認を求めた内容が認められることになります(会社法第145条3号及び会社法施行規則第26条3号)。

 ただし、供託した金額は既払とみなされますので(会社法第144条6項及び同7項)、売買代金支払の不履行は、供託した金額を超過する額が売買価格と定められた場合になります。

 

譲渡承認請求者にとっては使いやすいのでは


 上述したとおり、株式の譲渡は本来自由であるべきものですので、株主が譲渡承認請求を行った場合、会社側では、限られた時間で処理することが多く、負担になります。

 また、期間制限を徒過した場合、当初の譲渡承認請求の内容が実現されるということになりますので、譲渡承認を求める株主にとっては、使い勝手がよい手続ではないかと言えます。

 

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2023年07月06日