株式相続における権利行使はどうなるか

 中小企業の同族会社でよくあるのが、創業者であるとかが、会社の発効済み株式に対して相当程度の割合の株式を一人で保有していることです。

 

 当該創業者がお元気で自らの支配権を維持している場合には問題がないことも多いのですが、この創業者が亡くなって、株式が複数の法定相続人に相続されることとなった場合、株主総会などでの当該株式の権利行使にどのような影響があるのでしょうか。

 

複数の相続人がいると準共有に

 

 例えば、創業者Aが死亡し、妻B、長女C及び長男Dの3人の法定相続人がいたとしましょう。

 Aが所有していた株式は、亡くなった時点で、潜在的にB、C及びDの準共有という状態になります。

 準共有とは、複数の人が所有権以外の財産権を共有している状態のことです。

 株式は、会社に対する一定の株主の地位を表彰した権利で、所有権以外の財産権となりますから、相続人らは、株式を準共有することになります。

 

 そして、この準共有ですが、遺産分割が完了しなければ、当該株式は誰にどの数帰属するのか判明しませんので、準共有状態が続くことになります。

 

相続人らが権利行使をするには

 

 会社法第106条は、「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」と定めています。 

 

 このため、準共有状態で相続人らが議決権などの権利行使をするには、相続人らの中で権利行使をする人を決めて、会社に対して通知をしておかなければなりません。

 権利行使者をどのように定めるかについては、民法の共有の管理行為に準じ、持ち分の過半数で決する必要があると解されています。

 

 前述のB、C、Dの事案で言えば、配偶者Bの2分の1の持ち分と長女Cの持ち分4分の1で過半数となり、Cを権利行使者と指定することができます。

 

 注意を要するのは、持ち分の過半数を有する側の判断で、共有状態の株式すべての権利行使者を定めることができる点です。

 このため、過半数の側が少数派を強引に排斥して権利行使をした場合、当該権利行使が権利濫用で否定された事例もございます。

 

権利行使者の指定通知がない場合は

 

 準共有の株式について、権利行使者の指定通知がない場合、上述の会社法によれば、会社の側で、当該株式の権利行使を認める必要はありません。

 

 しかし、「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」とあるように、会社の側で権利行使に同意があれば、指定通知なくとも準共有状態の株式の権利行使は可能です。

 このため、会社の支配権を有する現経営陣などにおいて、会社や自己に有利に働く権利行使が見込めるのであれば、指定通知なくとも、権利行使を容認するということもありうるわけです。

 

 ただ、どのように権利行使をするか決めるにあたって、株式の管理行為にあたる一般の議決権行使については、やはり相続人らの持ち分の過半数で決することとなります。

 

会社からの招集通知先は?

 

 ちなみに、株式が準共有状態の場合、会社から誰に招集通知等の通知をするべきかについては、会社法第126条3項が、「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、株式会社が株主に対してする通知又は催告を受領する者一人を定め、当該株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければならない。」と定めています。

 また、同条4項は、「前項の規定による共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる。」としています。

 

 したがって、会社としては、株式を準共有する相続人らから、通知受領者の指定があれば、その人に、指定がなければ、相続人らのいずれか一人に、招集通知を発すれば足ります。

 

 なお、先述した会社法第106条の権利行使者として指定された者と同法第126条3項の通知受領者として指定された者が異なることは考えられます。

 通知受領者と権利行使者を同一にするのであれば、相続人側で、両方とも会社に対し指定通知をしておくのが確実かと思えます。

 

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2023年06月27日