役員から会社への貸付金を返してもらえない問題

 会社の役員をされていて、預貯金などの資産に余裕のある方は、当該会社の資金繰りなどで、当該会社に個人的に貸付をされていることもあるのではないでしょうか。

 

 会社にとっては、急を要する資金を手配するために、最も手っ取り早い手段ではあるかと思います。

 支払期日なども、当該会社の役員であれば、事情に応じて、柔軟に調整ができるからです。

 

 しかしながら、役員の方が、こういった貸付を会社に繰り返し、会社からの返済が先延ばしになっていることも見られます。

 会社と役員の関係が円満であればいいのですが、役員が退任したり、役員と会社の関係に亀裂が生じたりした場合、役員の方にとって、会社に貸し付けたお金を返還してもらえないというトラブルが起こり得ます。

 

 このような対立が生じた際、役員が会社に貸し付けたお金を返還してもらえるかどうかについて、いくつかポイントをお示ししたいと思います。

 

ちゃんと証拠が残っているか

 

 民事事件において何より重要であるのは、客観的証拠の有無です。

 いくら口頭で貸付を行った事実を述べ立てても、裁判などになれば、それを証明できなければ、意味がありません。

 

 このため、役員が会社に貸し付ける際には、必ず、契約書の類を作成し、また、金銭交付した際には、領収書や振込明細などの客観的資料を残しておくのが大切です。

 

 契約書や覚書がなかったとしても、役員のポケットマネーから会社に金銭移動があった事実は、貸付の有力な証拠となります。

 ただ、金銭移動の名目が、貸付でなく、援助であったとか、会社が言い逃れすることも考えられますので、できれば契約書などで明記したいものです。

 

支払期限はいつか

 

 貸付をする際には、支払期限を明確に定めておくのが良いと思います。

 支払期限を定めておけば、貸主は、支払期限経過後、会社に支払を請求できることが明白だからです。

 

 ところが、会社と役員の馴れ合いの関係の下、支払期限を定めていない場合も見られます。

 この場合、支払期限の定めのない契約ということになりますが、民法上、「当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる」(民法第591条1項)とされております。

 したがって、貸主が相当の期間を定めて返還の催告をし、相当な期間が経過すれば、返還を求めることができます。

 相当の期間を定めない催告、不相当に短い期間を定めた催告も、無効ではなく、当該催告から相当と解する期間を経過すれば、返還請求ができることになります。

 

 ちなみに、相当の期間とは何かですが、その契約の内容と取引上の社会通念によって定まるものであるとされていますので、明確にこの期間とは言い難いものとなっています。

 

 それでは、会社の業績が回復したら返すという内容が付されていた場合はどうでしょうか。

 これは、古い判例で有名な出世払い事件の判例を想起させるものです。

 出世したら払うという契約は、法的に、出世を停止条件とするものなのか、出世するかしないか判明した時点を期限とするものなのか、解釈が分かれ、後者を採用した事案です。

 前者であれば、条件なので、出世しない以上、返還義務が生じませんが、後者であれば、出世の見込なしと判明した時点で支払期限が到来します。


 業績回復したら返すという内容も上記と似ていますので、期限と解釈し、業績が回復するか、業績回復の見込みがなくなれば返還義務が生じるとなるのでしょうが、それがいつなのかという点で争いが残ります。

 

 したがって、返済期限について、期限を定めた方がよいですし、期限を定めないのであれば、「業績が回復したら」などの余計な文言を入れない方がよかろうかと思います。

 

消滅時効期間について

 

 消滅時効の点についても、注意を要します。

 まず、一般論としての期間ですが、これは、貸主が請求しうる時から5年とみて対応すべきです。

 

 令和2年4月の民法改正前の定めでは、個人の消費貸借契約は10年とされていますが、個人と会社の取引は、商法の規定により、個人と商人間の取引ですから、この特別法が適用されて、5年とみるべきです。

 したがって、民法改正前後を問わず、役員の会社への貸付金の時効期間に変動はありません。

 

 時効の起算点は、期限の定めがあれば、期限到来時になります。

 返済期限の定めのない場合は、少し注意が必要です。

 返済期限の定めがない場合、貸主は、いつでも催告して返済を求め得るものですから、契約成立時点を起算点として、消滅時効の期間が進行すると解されています。

 

 このため、催告を行うにせよ、行わないにせよ、時効の更新にかかる手段をとらずに、契約成立時から5年が経過すると、会社から消滅時効の援用をされてしまうことが考えられます。

 

 なお、催告しても相当な期間経過後でないと返還を求められないことから、消滅時効の起算点を契約成立時でなく、契約から相当な期間経過後と解する考えもみられますが、相当な期間といっても、通常、長くはありません。

 

 したがって、結論としては、会社への貸付契約が成立した時点から5年以内に、時効の更新手続を取るのが無難です。

 ちなみに、時効の更新としては、会社に貸付債務を承認する書面を作成してもらうことなどが考えられます。

 

 以上のとおり、役員から会社への貸付金の返還についての注意点にいくつか触れてみました。

 もし、会社から貸付金を返還してもらえないことがあれば、一度、専門家にご相談されてみられることをおすすめいたします。 

 

※中小企業をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。

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2023年06月14日