海外在住の方が日本での遺産分割をするには

 

国際化した今の時代、海外で生活している日本人の方もたくさんいらっしゃるのではないかと思います。

 

 海外に在住している方が日本国内にかかわる案件で煩わされることの一つは、ご両親やご兄弟が亡くなれた際に発生した相続の問題ではないでしょうか。

 

 海外在住の日本人の方が日本の家族の遺産の法定相続人になった場合、海外に在住しながら、どのようなことをしなければならいかを見ていきたいと思います。

 

 

相続を承認するか、放棄するか

 

 まず、自らに相続が発生したことを知った場合、最初に判断を迫られるのは、法定相続を承認するのか、放棄するのかについてです。

 

 相続放棄をするのであれば、自らの相続を知った日から3か月以内に、相続放棄手続を行う必要が出てきます。

 

 相続放棄の管轄裁判所は、亡くなられた被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

 大阪市内が最後の住所地の被相続人であれば、大阪家庭裁判所が管轄となります。

 

 相続放棄の申述には、単に申述書を家庭裁判所に提出すればいいわけでなく、被相続人の住民票の除票や自分が相続人であることを示す戸籍といった添付書類を要することになります。

 海外において、こういった書類を日本から取り寄せるのは非常に難しいので、協力できる日本国内の親族がいるのであれば、こういった方に書類の取り寄せをお願いするか、日本国内の弁護士に申述そのものを代理委任することを考えるべきでしょう。

 

 なお、相続放棄をするかどうかについては、前提となる遺産の内容調査が必要ですが、これが3か月という期間内に終わらない場合もあります。

 このような場合には、この3か月という期間を伸ばしてもらうよう熟慮期間伸長の申立というものができることにもなっています。

 

遺産分割協議をどうするのか

 

 では、相続放棄をすることなく、相続を承認する場合、その他の法定相続人と何をすればよいのでしょうか。

 

 これについては、日本国内の相続と変わりなく、まず、法定相続人間で遺産分割の内容や方法を協議(話合)していくことになります。

 遺産分割協議の方法は、定まったものはなく、メールなり、テレビ会議なり、手紙なり、任意の方法で、やり取りをしていくことになります。

 現代では、zoomや、チームズなどの通信アプリが発達して便利になっていますので、この点、協議をする面倒さはなくなったのではないでしょうか。

 

 法定相続人間の話合の結果、それぞれの取り分や分け方などについて、全ての合意が取り付けられれば何よりですが、話がこじれて当事者間で決着がつけられない場合は、管轄の家庭裁判所で遺産分割の調停や審判をするしかありません。

 

遺産分割調停とは

 

 遺産分割の調停は、裁判所の指揮の下、法定相続人間で、遺産分割に関する話し合いをする手続です。

 原則、申し立てる側が相手方の住所地を管轄とする家庭裁判所に申立します。

 このため、海外の方が申立人となって調停をする場合、日本に住んでいる相手方相続人の住所地を管轄する家庭裁判所ということになります。


 一方、日本国内の相続人から海外在住の方を相手にして申立をする場合は、管轄を次のように考えます。

 住民票が日本国内に残っている場合 → 住民票上の住所の管轄裁判所

 住民票が残っていない場合 → 日本における最後の住所地

 

 原則は、上記ですが、いずれの住所地も、最早、海外在住者にとって縁がないのであれば、申立人側で、敢えて、申立人住所地の裁判所に申立をし、裁判所に自庁処理をしてもらうよう上申する場合もあります。

 

遺産分割審判とは

 

 遺産分割審判とは、裁判官に、遺産分割の具体的な内容を審判というもので判断して(決めて)もらう手続です。

 

 実は、遺産分割事件は、家事事件手続法上、調停前置主義とされていないため、いきなり審判の申立をすることも適法です。

 そこで、調停をすっ飛ばして、審判申立をいきなり起こすこともできますが、裁判所としては、まず当事者で話し合いをした方がよいとして、職権で調停に付す(付調停といいます。)のが一般的です。

 

 結局は、調停からということになりますが、この審判申立の管轄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所ということになります。

 

海外から家裁での手続を進められるのか

 

 現実的に、海外在住の方が日本の家庭裁判所での手続を進めるのは困難です。

 相続放棄と同様、申立には、法定相続人を特定するための多くの戸籍関係書類を添付しなければなりませんし、月に1回程度の頻度で開かれる調停手続に出頭することは物理的に無理だからです。

 

 確かに、遠方の当事者のために、WEB会議の試験的運用を行ったりはしていますが、これが定着するのか、はたまた、海外の在住の方にまで、拡充されるものなのか、その点は未だ定かではありません。

 

 調停・審判にしても、自らの主張を認めてもらうため、いろいろな書類を出して疎明していく必要がありますが、海外から国内にある資料を収集したりするのは難しいかと思われます。

 

 また、遺産自体である不動産、預貯金、株式などは、日本に所在する以上、それらの調査や、遺産分割に伴う登記変更手続、金融機関とのやり取りなども、海外経由となると障害が大きいものと考えられます。


海外在住者の本人証明等は


 日本国内の相続人であれば、遺産分割の際の必要書類として、住民票や実印の印鑑登録証明書が求められることになります。

 

 これら書類は、日本国内では、役所に取りに行ったり、郵送請求をしたりするのが厄介ですが(マイナンバーなどでは、コンビニでも取れるようです。)、取得にそこまでの負担はありません。

 

 しかし、海外に在住している場合はどうでしょうか。

 日本に住民票を残した海外在住者であれば、日本国内に住民票がありますので、住民票の取り寄せは時間がかかるだけかもしれませんが、印鑑登録証明の取り寄せは本人でないと難しいものがあります。

 また、日本に住民票を残していない場合、住民票も印鑑登録証明書も取れません。

 

 そこで、このような書類が取得できない方について、印鑑登録証明書の代わりとしては、「サイン(署名)証明書」、住民票の代わりとしては、「在留証明書」を在住する外国にある日本領事館に出向いて発行してもらう必要があります。

 

海外からの遺産分割に困ったら

 

 海外に在住しながらの遺産分割は、相続人間で容易に遺産分割の同意ができるのであれば、国内にいる他の相続人の協力を得ながら処理していくことは可能です。

 

 ただし、相続人間で意見の対立があり、遺産分割がまとまらない場合、上述したとおり、相続財産の調査、遺産分割調停や審判の対応など、様々な点で困難な状況に陥ります。

 

 このような際は、調停や審判などの手続で代理人として対応できる弁護士をご活用下さい。

2022年02月07日