ツイッターのリツイートをめぐる怖い判例

 

 ソーシャルネットワークサービス(SNS)の利用が盛んな昨今、ツイッターを利用されている方も多いと思います。

 

 利用されたことがある方はよくご存じだと思いますが、ツイッターのメインな機能は、それぞれの参加者がアカウントを作成し、本名又は匿名で、日ごろ思ったことであるとか、見かけたものであるとかを、写真などのデータを添付したりして気軽にツイートできるものです。

 

 これに対し、その他のツイッター参加者が返答をしたり、「いいね」をしたりすることで、知り合い同士でも、見ず知らずの者同士でも、インターネット上で交流を深めることができるようになっています。

 

 ところで、このツイッターの中には、リツイートという機能があります。

 これは、ある人が投稿したツイートについて、これを閲覧した別のツイッター利用者が、そのツイートを自らのアカウントのツイートに添付して、更に広める役割を果たしています。

 

 リツイートについては、元のツイートの内容(投稿文や添付された写真)がリツイートした人の投稿欄に表示されますが(写真自体がリツイート表示に適するよう加工されたり、元ツイートの投稿文が長ければ、一部後ろが抜粋されたりはします。)、そこには、元のツイートをした人のアカウントが表示されるため、リツイートした人が元のツイートの内容の投稿者と異なることは、一応識別できるようになっています。

 

 このため、リツイートは、言わば、元ツイートをリツイートする者が自らの立場からも、発信的に紹介して広めてあげるというイメージが正しいのかもしれません。

 

 リツイートは、閲覧した他者のツイートの下部に「いいね」と並んだ「リツイート」用のアイコンが設置されており、スマホなどであれば、指でポチッと押すことで簡単にできてしまうもので、元ツイートに乗っかって自己の思想主義などを表現できる非常に手軽な方法と言えます。

 

 しかし、最近の最高裁判例では、このリツイート自体をすることで、違法な元ツイートをした者のみならず、リツイート者にも、法的責任が生じるとする判断が現れています。

 

 

リツイートによるシステム上の写真加工処理が著作者人格権侵害

 

 まず、ホットな判例で、令和2年7月21日最高裁判決は、リツイートによって元ツイートに添付された写真がツイッターのシステム上、自動加工処理されてリツイート欄に掲示されたことについて、リツイート者が写真の著作者の著作者人格権(正確には、同権利中の氏名表示権)を侵害するものであると判断しました。

 

 そもそも、元ツイートの投稿者は、写真の著作者のウエブサイトから無断で同写真を借用し、同投稿者のツイートに添付したということで、この点、元ツイートの写真添付のツイート行為自体が著作権法上の権利を侵害し、違法であることは疑いがありません。

 

 しかし、この判例の事例は、元ツイートした人に関する話でなく、その元ツイートをリツイートした人の話です。

 

 この件、元ツイートに添付されていた写真は、著作者名表示がされており、著作者人格権としての氏名表示権(著作物に著作者の氏名を表示することを主張できる著作者の権利)を侵害することはなかったのですが、リツイートをすることによって、ツイッターのシステム上、同写真がトリミング加工されてしまい、氏名表示が消えた形で、リツイート者のアカウントのタイムラインに当該写真が掲載されることとなりました。

 

 そこで、著作者の氏名が表示されずに、写真がリツイート画面に表示されたことは、リツイート者による著作者の氏名表示権侵害に相当すると写真の著作者は主張したのです。

 ツイッターなどのSNSを利用しているとわかりますが、リツイートによって、元ツイートがどのような加工をされて画面表示されるのかは、当該システム運用者のプログラム上の話であり、リツイート者自身が関与しているものではありません。

 そこで、リツイート者が氏名表示権を侵害したと言うのはどうかと思う点もあるのですが、最高裁は、「このような画像の表示の仕方は、ツイッターのシステムの仕様によるものであるが、他方で、本件各リツイート者は、それを認識しているか否かにかかわらず、そのようなシステムを利用して本件各リツイートを行っており、上記の事態は、客観的には、その本件各リツイート者の行為によって現実に生ずるに至ったことが明らかである。」として、システムに乗っかって利用して結果を生じさせた以上、どのように加工されるかの認識の有無は問わず、リツイート者が責任を負うとするようです(ただし、この合議体では、反対意見を示す裁判官も一人おられました。)。

 

 また、リツイートの画面上に元ツイートの表示がされ、この元ツイートをクリックすることで閲覧者は元ツイートに容易にたどり着けます。

 このように元ツイートを辿れば、写真自体の氏名表示がなされていることになるので、氏名表示権の侵害をリツイート者はしていないのではないかという考えもありますが、最高裁は、「別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり、本件各ウェブページを閲覧するユーザーは、本件各表示画像をクリックしない限り、著作者名の表示を目にすることはない。また、同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。」として、リツイート者の氏名表示権侵害を肯定しました。

 

 確かに、著作権法を硬直的に適用するのであれば、最高裁の上記解釈も誤りとは言えないかもしれませんが、最高裁の判断は、ツイッターの仕組みをあまりにも機械的に捉えすぎ、SNSの運用の実態を無視しており、もう少し柔軟な判断基準を設けてもよいのではないかと思わざるを得ません。

 

 しかし、最高裁が上記のような判断を示した以上、リツイートにより、著作権や著作者人格権の侵害を及ぼす可能性があるということを肝に銘じなければなりません。

 

リツイートで名誉棄損

 

 上記最高裁の判断より以前に下級審でリツイートによる名誉棄損が成立するかが争われていた事案があります。

 

 令和2年6月23日大阪高等裁判所の判決ですが、元ツイートに記載されていた名誉棄損に該当する内容の投稿をリツイートした者についても、名誉棄損の成立を認めています。

 

 上記裁判例は、「リツイートによる投稿をも含めて、ツイッターにおける投稿が、当該投稿に係る表現内容を容易な操作により瞬時にして不特定多数の閲読者の閲読可能な状態に置くことができる特性を有するものであるにとどまらず、当該投稿を閲読した者が更にその投稿内容をリツイート等することによってその表現内容を容易な操作により更に多くの閲読者の閲読可能な状態に置き、そのような行為が繰り返されることによって、当該投稿の表現内容が短期間のうちに際限なく拡散していく可能性を秘めており、そのような危険性は抽象的危険の域にとどまらないものというべきであることからすれば、単純リツイートの場合を含めて、ツイッターにおける投稿行為を行う者には、投稿行為に際し、その投稿内容に含まれる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであるか否かについて、相応の慎重さが求められるものというべきである。」としています。

 

 リツイート自体が元ツイートの名誉棄損に加担していると言える部分が考えられるので、この結論に私としては肯定的であるのですが、リツイートは容易にできてしまうことや、誤って触れてしまうこともあるかと思うので、リツイート者に責任を負わせるにも故意性が推認されるレベルが必要だろうなと感じています。

 

SNSやネット上の投稿や反応は慎重に!

 

 このようにSNSにおける投稿については、元投稿の際に、内容の慎重な確認が重要であると同時に、他者の元投稿をリツイートなどして、更に拡散させるような場合には、元投稿の内容が何らかの権利侵害を招いていないかを吟味してリツイートする必要があると言えるでしょう。

 

 便利なようで、かなり不便で危険の多い時代になったものだと思わざるを得ません。

 

インターネット上の誹謗・中傷などのトラブルをめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。  

 併せて、ご閲覧下さい。

 

 「ネットで誹謗・中傷されたときは?」

 「ネット上の誹謗・中傷の解決に地域格差」

 「お店に対する投稿に損害賠償請求できる?」

 

 

2020年09月25日