デート商法被害は消費者契約法で取消可能に

 

 消費者トラブルの中には、人の恋愛感情を利用して、高額な商品を売りつけたり、サービスを提供する契約をさせたりするという手法があります。

 

 街角でナンパを装ったりして近づいてきたり、電話で誘いをかけたりということが過去に多く行われていましたが、最近は、スマホの普及により、マッチングアプリやSNSで、一見、何食わぬ顔で出会いを求める態を装いながら、デートのようなものを行い、実は、商品販売を目的として、自らの勤務する販売店に連れていくというパターンが増えてきています。

 

 消費者トラブルから消費者を保護する従来の法律では、クーリングオフや、消費者契約法による取消という手段がありました。

 

 しかし、デート商法は、商品販売や契約後も、販売員がしばらくの間デートを繰り返して、契約者のハートを繋ぎとめ、クーリングオフ期間を徒過させるという手を使うこともあります。

 また、消費者契約法も、それまでの規定では、不実告知(事実と異なることを告げること)などの一定の要件があるような取引でないと、取消を主張しづらいという事情もありました。

 

 そこで、2019年4月1日から、デート商法被害に遭った方についても、デート商法そのものを理由に消費者契約法による取消を主張できるようになりました。

 厳密に言えば、広く親密な好意を利用した場合を含み、恋愛感情を利用した商法に限られないわけですが、ここでは、便宜上、デート商法と略称します。

 

 

取消のための要件とは

 

 消費者契約法第4条3項4号が、デート商法による取消に関する規定となっており、同規定は、次のとおり定めています。

 なお、黒い太字は、ポイントとされる部分です。

 

 「当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。」

 

社会生活上の経験について

 

 上述のとおり、消費者契約法の規定は、被害者に社会生活上の経験が乏しいことを要件にしています。

 このため、成人したばかりの学生であるとか、働き始めた社会人であるとか、若年者をイメージされることもあるかと思います。

 ただ、社会生活上の経験の乏しさについては、たんに年齢のみで測られるものではありません。

 

 消費者庁がホームページで示す逐条解説においても、「社会生活上の積み重ねにおいて若年者と同様に評価すべき者か否かは、当該消費者の就労経験や他者との交友関係等の事情を総合的に考慮して判断するもの」しています。

 

 したがって、長年、専業主婦(夫)であった方とか、仕事をリタイヤして時間が経過している高齢の方などについても、その属性に応じて、対象に含まれる可能性があると理解してもよいようです。

 

恋愛感情その他の好意の感情

 

 消費者が勧誘者に対し、恋愛感情又はその他の好意の感情を抱いていることが必要です。

 ここがまさに、デート商法のデート商法たる要件と言えるでしょう。

 

 恋愛感情については、わかりやすいかと思います。

 女性の消費者が男性の勧誘者の容姿や所作に魅了され恋愛感情を抱く、又は、男性の消費者が女性の勧誘者に幻惑されるという逆のパターンもあるでしょう。

 また、LGBTQの権利に着目するならば、同性同士であっても、この法律の要件である恋愛感情が認められることがあると考えられます。

 

 それでは、恋愛感情以外の「その他の好意の感情」とはなんでしょう。

 消費者契約法逐条解説は、「他者に対する親密な感情」、「良い印象や好感を超えて恋愛感情と同程度に親密な感情であれば、本規定の対象となり得る。もっとも、本要件における好意の感情というためには相当程度に親密である必要があり、単なる友情といった感情は含まれない。」と記載しています。

 

 親密な感情と言えば、巷間、広くあるところで、その限定が難しいところですが、上述した逐条解説の記述からすれば、恋愛感情に匹敵するくらい、消費者が勧誘者のことを惚れ込んでしまっているという状況が必要なようです。

 

 なかなか例示が難しいのですが、一人暮らしで全く友人関係がない人については、無二の親友を装った勧誘者であるとか、身寄りのない高齢者については、子か孫のように好感や親切を示す勧誘者になるでしょうか。


勧誘者も消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信

 

 消費者が勧誘者に恋愛感情などを持っているのと裏腹に、勧誘者も消費者に同様の恋愛感情などを抱いていると消費者が勝手に思い込んでいることが必要になります。

 

 上述した消費者の誤信の要件について、逐条解説では、「消費者の認識において、勧誘者が消費者に対し恋愛感情等を有しているかどうかが不明な場合は、本要件に該当しない」としておりますので、消費者自身、勧誘時に、勧誘者が自分のことを何とも思っていないと理解していた事例では、要件を満たしません。

 

 しかし、逐条解説は、消費者が誤信する「同様の感情」について、「程度に多少の差があったとしても、『同様の感情』を抱いているといえる」としていますし、「恋愛感情と友情とでは『同様の感情』とはいえないが、双方の感情が密接であり対応する関係にあれば、『同様の感情』に含まれる」としています。

 

 そもそも、消費者も勧誘者が自分に好意的感情を抱いてくれていると思い込んでいるがゆえに、消費者の自由な判断が阻害されて、契約をしてしまうのがデート商法の特徴です。

 消費者がデート商法取消の主張をする場合は、上記認識があるからこそだと思いますので、上述の要件が否定されることは稀だと思われます。

 

 なお、勧誘者自身、消費者が勝手にそのような思い込みをしているということを認識していなければなりません。

 

契約を締結しなければ勧誘者との関係が破綻すると告げること

 

 この要件は、読んで字の如くで、「契約してくれないと二人のつながりがなくなってしまいかねない。」とか、「契約しないと、関係が終わっちゃう。」とかといったことを勧誘者が消費者に告げることです。

 

 しかし、このような事実をあからさまに消費者に伝える勧誘者はごく稀でしょう。

 このようなことを明言すれば、デート商法を被害者に気づかせる契機となるからです。

 

 このため、上記要件については、単なる明言に止まらず、しぐさや雰囲気、話のもって行き方や文脈、その場の状況などを総合考量して、勧誘者から上記と同趣旨の表現があったかどうかを判断することになると思います。

 おそらく、この要件の解釈や事実の評価に、裁判所は一番苦労するのではないでしょうか。

 

取消ができる期間

 

 取消の主張は、消費者契約法第7条1項で、「追認をすることができる時から一年間行わないときは、時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。」と定められています。

 

 追認をすることができる時とは、デート商法などでは、自分がデート商法で騙されているのではないかと認識した時点となるでしょうか。

 具体的には、勧誘者から、突然連絡が来なくなったり、連絡が取れなくなったり、別れを切り出されたりといった時点が目安になるかと思います。

 わずか1年で取消の主張ができなくなりますので、少しでも、おかしいと思い始めたら、放置せず、専門家や消費者センターに相談にいかれることをお勧めします。

 

 また、騙されていることに気づかなくとも、契約の日から5年経過すると取消の主張はできません。

 6年経過して騙されたことに気づくなどのケースが考えられます。

 ただ、逆に言えば、長年経過してから気づくというのは、勧誘者が相当長期間消費者との関係を保っている場合が多いでしょうから、そもそもデート商法があったと言えない事態とも思えます。

 

※消費者トラブルに関する別のブログは次のとおりとなります。

 併せて、ご閲覧下さい。

 

「美容医療にもクーリングオフ適用へ」

「高額キャンセル料は争える?」

 

 

2020年03月26日