コウノドリと産科医の現状

 「コウノドリ」という漫画をごぞんじでしょうか?

 現在、テレビドラマのセカンドシーズンが放映中なので、原作の漫画を知らなくても、どういう話なのか知っている方も多いのではないでしょうか。

 

 コウノドリの主人公は、総合病院の産科医ですが、その一方で有名なジャズピアニストという側面もある人です。

 ジャズピアニストであることは、一部の人しか知らず、鬘をつけて変装して、「ベイビー」という芸名を使い、ジャズライブで演奏しているのです。

 このベイビー、当然、産科医としての勤務時間が終了した後に、ジャズの演奏をしているわけですが、産科医として、勤務時間外でも呼び出しを受けて(オンコール)、緊急の対応を要請される場合があります。

 したがって、演奏中でも、呼び出しがかかれば、演奏を早期に終了して、病院に駆けつけるシーンがよく出てくるのです。

 

 上記のようなシーンは、漫画としての誇張があるかもしれませんが、産科医の現状は、非常に深刻な状況にあると言われています。

 

 少し前になりますが、ある30代の産科医の自殺について、過労死が原因であるとして労災認定されたとの報道がありました。

 

 この産科医が精神疾患を発症する前の1か月間の時間外労働は約173時間もあり、酷い月は、約209時間、亡くなる前の約6か月間の休暇はわずか5日間だけだったとも報道されています。

 この産科医のケースほどではないにしても、今、各科の中でも、産科医は過重労働をせざるを得ない環境に置かれているのではないかという問題が指摘されています。

 

 産科医は、出生率の低下による需要の見込が低いこと、周産期医療の特殊性から当直・拘束が多く長時間労働を余儀なくされること、訴訟リスクの割合が高いこと等から、近年、志望が減少している上に、経験のある産科医が産科を離れてしまうことも多いと言われています。

 志望する産科医が減れば減るほど、産科医が不足し、この不足状態が、現役の産科医に多大なる負担を強い、更に経験のある産科医が産科離れするという悪循環に陥っているものと見られています。

 

 前出の産科医は、30代で若い方でしたから、このような熾烈な労働環境であることを知りながらも、産科医を志望したものと思われます。

 産科医にネガティブなイメージがあるにもかかわらず、産科医療に身を捧げようとされた、尊い意思をお持ちであった方かと推察されます。

 このような、志の高い人ほど、犠牲になる世の中というのは何とも痛ましい話であると言わざるを得ません。

 

 労災は、過重労働による精神疾患及びそれを原因とした自殺に関し、因果関係が認められれば、労災としての保障をします。

 業務上において、身体的に障害を負うのも、精神的に障害を負うのも、同じように保護を与えるべきなのは当然ですが、精神的疾患の労災については、認定してもらうのに大変な苦労を要することも多いのが現実です。

 我々弁護士は、労災認定申請の代理を行って、その支援を行うこともありますが、弁護士でも、困難な作業といえます。

 

 前出の「コウノドリ」の話に戻りますが、話の中で、主人公は、よく、「お産は奇跡だ」という表現を用いています。

 絶対安全と誤解されやすい産科医療に対するイメージに一石を投じ、産科医が周産期医療に常に負っているリスクを周知し、妊産婦と産科医の相互理解関係を醸成し、大きな視点からすれば、産科医志望者の回復を願っているものだと思われます。

 

 少しでもよりよい産科医療体制を作るために、医療に携わらない私達も産科医のことを理解することが必要です。

 そのためには、大変有意義な作品だと考えています。

2017年10月27日