教師が懲戒処分を受けると・・・

 教職に就かれている方は、不祥事を起こしたりすると、懲戒処分を受けることがあります。

 よく報道されるのは、教え子にわいせつ行為を働いたというものですが、それ以外にも、交通違反、子どもに対する体罰、職員間でのトラブル、保護者との間でのトラブルなど、懲戒の対象とされる不祥事は枚挙に暇がありません。

 

 また、国公立の教職員であれば、職務を十分に果たすことができない場合は、分限処分と言うものもあります。

 一番わかりやすいのは、心身の故障などにより、公務を十分に果たせない場合でしょう。


 懲戒処分の場合、その種類は、免職、停職、減給、戒告となります。

 分限処分の場合は、免職、降任、休職、降給となります。

 

 文部科学省のホームページ上では、懲戒処分及び分限処分の調査状況のデータが掲載されております。

 現在の最新データは、令和元年度の全国のものですが、これを参照するところ、懲戒処分の内訳は、免職が213、停職が157、減給が237、戒告が224となっています。

 分限処分の内訳は、免職が7、休職が8242、降格0、降給0となっています。


 今回は、この中でも、教員が懲戒処分をされる際に、どのような手続が進められるのか、その結果の処分を争うにはどうすればよいかなど、触れていきたいと思います。

 


私立の教員の場合


 教員とは言え、国公立の学校と私立の学校では、立場が違います。

 前者は公務員となりますが、後者は通常のサラリーマンのようなものです。

 自ずから処分される手続が異なってきます。

 

 私立学校の場合、懲戒は、各学校の定める就業規則における懲戒規定に則って処分されます。

 最悪、懲戒解雇となるのですが、解雇するには、客観的な合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効となります。

 

 私立の教職員の懲戒処分に対する不服申立の相手方は、あくまで雇用先の私立学校法人そのものです。

 勤務先たる学校法人に対し、裁判手続で、懲戒処分の無効を訴えたり、違法な懲戒処分であれば、それに伴う損害賠償請求を行ったりすることが考えられます。

 その流れは、一般企業に関する労働トラブルと同様と言ってよいかもしれません。


 ただ、教員であることで通常の企業と異なるのは、本人の保有する教員免許の点です。

 日本の学校で教員となるには、原則、教員免許を有することが条件なのですが、この免許に関する制度を定める教育職員免許法は10条1項において、免許が失効する場合を定めています。

 同条1項1号は、「禁錮以上の刑に処せられた者」や「日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者」については、免許が失効とすると定めています。

 

 このため、禁固以上の刑に処せられた事実を原因として、懲戒解雇させられた私立学校の教員は、教員免許自体も失うこととなります。

 

 また、同法第11条1項においては、私立学校の教員でも、公立学校の教員が懲戒免職される事情で懲戒解雇された場合、免許を取り上げなければならないとされています。

 

 同条3項では、「法令の規定に故意に違反し、又は教育職員たるにふさわしくない非行があって、その情状が重いと認められるとき」も取り上げられるとされています。

 

 こういった免許の取上処分は、教育委員会が該当教員の聴聞手続などを経て判断し、上記法律要件に該当すると判断すれば、該当教員は免許を失うこととなります。

 

 なお、失効と取上の違いですが、失効は、要件とされている事実に該当すれば当然に免許が失効したものと扱われるのに対し、取上は、聴聞日というものが設けられ、ここで聴聞した内容を基に判断されるという違いがあります。

 

国公立学校の教員の場合

 

 国公立学校の教員の場合は、その立場が公務員となるため、処分を受ける流れも異なります。

 公務員は、所属する地方公共団体なり、国なりの定める処分手続にしたがうことになります。

 

 例えば、公立の小中学校の場合、教員の懲戒処分を行うのは、教員の任命を行った都道府県の教育委員会になります(地方教育行政の組織及び運営に関する法律37条及び同38条)。

 市町村の教育委員会がある場合、都道府県の教育委員会は、市町村の教育委員会から内申を受けて、懲戒の判断を行うことになります。

 

 教員の懲戒処分の内容については、大阪市の場合、「被処分者の所属校種、職種、年齢、処分内容、処分年月日、事案概要」を公表するとあります(大阪市教育委員会の懲戒処分に関する指針)。懲戒免職及び停職3月以上の処分については、被処分者の氏名や学校園名まで公表されます。

 多くの地方公共団体でも、概ね同様の流れで懲戒処分や公表がなされるかと思われます。

 

 また、懲戒処分とは別に、教員免許について、公立学校の教員の場合、「公立学校の教員であつて懲戒免職の処分を受けたとき」に失効すると定められているため(教育職員免許法第10条1項2号)、懲戒免職処分を受けた時点で教員免許も失効します。

 

 「法令の規定に故意に違反し、又は教育職員たるにふさわしくない非行があつて、その情状が重いと認められるとき」には、免許状の取り上げ事由にも該当します。

 懲戒免職にあたらずとも、この要件に該当するようであれば、免許取り上げの処分を受けることも考えられます。

 

 国公立学校教員が懲戒処分を争うには審査請求から

 

 公務員が懲戒処分を受けてしまった場合、争う方法には段階があります。

 

 まず、審査請求という手続を起こすことになります。

 処分があったことを知った日の翌日から3か月以内(または処分があった日の翌日から1年以内)に、国家公務員の場合は人事院に対して(国家公務員法第90条3項及び同法第90条の2)、地方公務員の場合は、所属する地方公共団体の人事委員会又は公平委員会に対して(地方公務員法第49条の2の1項及び同条の3)、請求する必要があります。

 審査請求は、行政の処分について、行政内部における第三者機関に再審査をしてもらうという不服申立手続です。

 

 例えば、大阪市では、不利益処分の審査に関する規則というものを定めており、審査請求の申立ての具体的方法や審査手続の流れを規定しています。

 申立先は、人事委員会とされています。

 審査請求の手続上では、口述書という書面の提出や証人尋問の方法なども規定され、裁判所のように主張・立証ができる制度になっています。

 

 審査請求の結論として裁決という判断が出されますが、この裁決で処分を取り消してもらえれば、それで目的は達します。

 しかし、審査請求の裁決で、懲戒処分に問題なしとされた場合、なおも不服を申し立てたいなら、司法権たる裁判所に訴えを起こすことになります。

 

 なお、懲戒処分からいきなり裁判所に訴えを起こすことはできず、まず審査請求を経なければなりませんが、これを審査請求前置主義とも呼んでいます。

 

審査請求の結果に不服があれば処分取消訴訟

 

 審査請求結果に対する不服申立については、原則、裁決をした行政庁の所在地を管轄とする地方裁判所に、処分取消訴訟を申し立てることができます(行政事件訴訟法第12条1項)。

 正式に裁判所の裁判官に、訴訟手続で判断をしてもらえるということになります。

 

 注意点は、その出訴期間であり、裁決があったことを知った日から6か月(又は裁決の日から1年)以内に訴えを提起しなければなりません(同法第14条1項及び同2項)。

 

 この訴訟では、裁判所において、当事者が主張・立証して、判決が出されることとなります。

 もちろん、通常の訴訟同様、判決に対する不服については、控訴・上告を行うことができます。

 

本件を弁護士に依頼すると…

 

 懲戒手続にかけられている段階では、弁護士は、懲戒に対する意見書を作成して提出したり、可能であれば、聴聞手続にご本人と同行したりして、サポートをします。

 

 懲戒処分が出された段階では、審査請求書の作成して申立をし、代理人として対応します。

 

 審査請求の結果が出された段階では、懲戒処分取り消しの訴状を作成し、行政訴訟を代理人として遂行することとなります。

 訴訟は、尋問を行うなどの最終段階でない限り、基本的に、依頼者様が期日に出頭される必要はありません。

 

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 併せて、ご閲覧下さい。

 

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「学校で子どもが事故に遭ったら」

2021年06月16日