既婚を隠した交際は不法行為?

 

 出会い系サイトやマッチングアプリなどの利用で、手軽に見ず知らずの男女が出会えるようになった現代社会。

 最近、よく見かけられるようになったのが、一方が既婚であるにも関わらず、これを偽って未婚の相手と交際をするトラブルです。

 そう簡単に見ず知らずの人と知り合えるツールのなかった一昔前であれば、自ずから近しい範囲に交際相手も限られるので、隠すのも難しかったのでしょうが、今は違います。

 

 このトラブル、知らずに付き合っていた未婚の方は、結婚を視野に入れた真剣な交際を見込んでいたり、そうであるからこそ、性的交渉に至っていたりするわけで、後日、付き合っていた相手が既婚であると知った時の精神的な打撃は相当なものと言わざるを得ません。

 

 このような場合、既婚であることを隠していた当事者に対し、隠されていた側は、何らかの損害賠償請求ができるのでしょうか。

 このブログでは、便宜上、既婚を隠していた側を加害者、隠されていた側を被害者と記載します。

 

まずは速やかに交際を終了するべきこと

 

 相手が既婚者であることを知った際に、被害者側がまず第1に考えるべきことは、その相手との交際を終了することです。

 なぜなら、相手が既婚であるということになれば、その相手には配偶者がおり、その配偶者との間に子どももいる可能性があります。

 このため、被害者としては、交際の継続により、相手の配偶者から不貞行為をしていると非難される可能性を考えなければなりません。

 

 相手が未婚であると信じて交際して関係を持っていた時期については、被害者側に不貞行為を行っている故意や過失がないので、反論のしようもありますが、既婚者とわかってからの交際継続は、不貞行為の故意ありとなってしまいます。

 

 したがって、自分の身を守るためにも、相手が既婚者とわかった時点で、速やかに相手との交際関係を終了しましょう。

 交際の終了を告げるにあたっては、メールやLINEなど、その内容を日時とともに客観的な形として残して置くのが望ましいと言えます。

 

既婚者であることを隠すのは不法行為か

 

 交際を終了した上で、既婚を隠して交際していたことが相手の不法行為にあたるかを考えなければなりません。

 

 この点、最近の裁判例を見てみると、「男性と交際をするのであれば結婚を念頭に置くことになり、不倫は受け容れられない旨述べていたことを知りながら、自己が法的には既婚者であることを原告に告げず、被告が独身者であると誤信した原告と肉体関係を伴う交際を開始してこれを継続し、その後も、既婚者であるとの事実を原告に説明する機会があったにもかかわらず、客観的事実とは異なる説明を繰り返したものであって、そのような被告の行為は、不法行為に該当する違法な行為に当たる」とした裁判例(令和2年6月25日東京地裁判決)が参考になります。

 

 上記裁判例からは、被害者側が真剣交際を望んでいたこと、加害者側が被害者側に既婚と告げず、被害者の誤信に付け込んで交際を繰り返し、結果、肉体関係を伴ったことがポイントとして見て取られます。

 このような事情があるからこそ、既婚を隠した交際の不法行為性が認められると考えた方がよいようです。

 

 一方で、不法行為性が否定された裁判例(平成17年10月28日東京地裁判決)も、これを示唆しています。

 

 「既婚者でありながら交際を申し込み、その結果、性的関係を持つに至ったとしても、その者が既婚者であることを偽り、相手がその者と婚姻することが法的に不可能あるいは極めて困難であるにもかかわらず、その者が婚姻する意向を示して相手を欺罔し、性的関係を持つに至らしめた場合はともかく、自身が既婚者であることを積極的に相手に告げなかった場合は、前記と事情を異にして、諸般の事情いかんによっては、違法性の程度も低いか、あるいは違法性を有しないものというべきである(もっとも、相手が錯誤に陥っている状態を積極的に利用するなど、前記の詐言を用いた場合と同視することができる場合は、諸般の事情いかんにより、違法性を帯びることがあるというべきである。)。」

 

 ただ、単に隠しているだけでは直ちに不法行為にあたるのではなく、ある程度の欺罔性や悪質性が重要と言えます。

 

貞操権や人格権の侵害

 

 仮に、不法行為が認められるとして、被害者は、どのような損害賠償請求ができるのでしょうか。

 

 一つは貞操権の侵害、又は人格権の侵害による慰謝料です。

 上記肯定裁判例では、加害者が既婚であると知っていれば、性的交渉を持たなかったとして、貞操権の侵害による精神的苦痛の慰謝料を請求し、被害者に100万円の慰謝料が認められています。

 また、別の裁判例(令和2年3月2日東京地裁判決)では、貞操権の侵害について、被害者に50万円の慰謝料が認められています。

 

 違う切り口では、「被告との将来の婚姻を信じて被告との交際を続けた原告に対する関係で、人格権侵害の継続的不法行為を構成する」とした裁判例(平成19年8月29日東京地裁判決)もあります。

 消滅時効にかかる時期があることも考慮し、継続的不法行為として、一連の行為を全て絡めとって判断対象にしたものと推測されます。

 この裁判例は、500万円もの慰謝料を認定していますが、相当長期間にわたる関係であり、2度の妊娠中絶、子どもの出産及び認知許否など、かなりハードな事案だったということのようです。

 

 結局、どの程度の金額が慰謝料として認められるかについては、各ケースごとの事情を踏まえてということになるかと思います。

 

実際の支出などが損害となることも

 

 次に、偽られて交際したことに伴う支出も損害として考えられます。

 真剣な交際であることを前提として、被害者が加害者に贈り物などをしていた場合、これが高額な支出などであれば、損害として認められる可能性があります。

 冒頭の肯定裁判例では、パテックの時計購入代金相当額392万0400円が損害として認められています。

 

 更に、被害者がこの交際のために結婚を考え、加害者も結婚を仄めかし、仕事を辞めることになったとあれば、仕事を継続していれば得られたであろう一定期間の収入といった逸失利益も請求の視野に入ってくるものとなります。

 

 最後に、訴訟になった場合、認められた損害額合計の1割の弁護費用の請求が可能です。

 

既婚を隠した不倫は、二重の損害のおそれ

 

 このように、既婚者が真剣交際を求める相手に付け込んで、既婚を隠して火遊びをするのは、交際相手から損害賠償請求をされることになりますし、自らの配偶者にも不貞行為として慰謝料の支払をしなければならなくなります。

 大体、既婚を隠して交際をする加害者は男性であり、隠されて交際して被害を受けるのは女性と言う構図になります。

 世の男性は、するべきことではありませんね。

 

本件を弁護士に依頼すると…

 

 まずは、加害者の身元がわからなければ身元調査をし、戸籍の取り寄せなどで、既婚であったという事実を確認します。

 並行的に、交際の経緯や加害者の悪質性を立証するための証拠固めをしていきます。
 

 ある程度、方針や証拠が固まったら、内容証明郵便にて、加害者に対し、損害賠償請求の通知を行います。
 この段階では、あくまで任意の交渉です。

 

 双方、話合をしても、折り合いがつかないということであれば、調停(話合)や訴訟などの裁判手続を検討しますが、一般的には、訴訟がファーストチョイスになるかと思います。

 訴訟に移行するか否か、追加費用を含めて、依頼者様とご相談させていただくのが通常の流れです。

 

 訴訟となる場合、訴状を作成して訴訟申立をし、弁護士が代理人となって、期日に対応します。

 訴訟は、尋問を行うなどの最終段階でない限り、基本的に、依頼者様が期日に出頭される必要はありません。

 訴訟では、流れによっては、尋問に至る前後に、裁判所より和解のすすめがあり、和解解決することも多いです。

 

※男女関係をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
 併せて、ご閲覧下さい。

 

「不貞行為の慰謝料請求の特徴とは」

「不貞行為の慰謝料請求は否定されていません」

「子どもの父親に認知させるには?」

「婚約破棄と慰謝料請求」

「中絶による女性からの損害賠償請求の可否」

「不倫の慰謝料請求を回避できる事情とは?」

「妻と浮気相手の子が夫の嫡出子?」

 

2021年05月21日