マンガや小説などの出版権の設定について

 

 マンガのコミックや小説は、漫画家や作家が思想又は感情を創作的に表現したもので、文芸や美術の範囲に属するものですから(著作権法第2条1項1号)、著作物となり、創作した漫画家や作家は当該作品の著作者(同法同項2号)となります。

 

 しかし、通常、コミックや小説の出版は、著作者自らでできるものでなく、どこかのマンガや小説の出版を業している会社に委ねています。

 大手で言えば、集英社、講談社、文藝春秋社などです。

 

 著作者でない第三者がコミックや小説を出版して収入を得る場合、著作者が有する著作権の中の複製権(著作物を有体物として複製する権利。同法第21条)というものに関係するため、著作者から許諾を得なければなりません。

 

 また、近年では、出版の形態が多様化し、電子配信のようなインターネット上で作品を提供するという流通形態が生まれましたが、この電子配信については、公衆送信権(同法第23条)という著作権中の著作者の権利の許諾を得る必要があります。

 

 上述では、許諾と書き、これは、複製や公衆送信という利用を著作者が第三者に許すことを意味するのですが、この許諾は、利用を許すにすぎず、著作権者は、他の第三者に対しても、重複して利用を許可することができます。

 

 加えて、許諾を得ている第三者とは違う第三者が著作者の許諾なく勝手に作品の複製販売や公衆送信販売を始めてしまっても、複製権や公衆送信権の権利者は、著作者本人ですから、許諾を得た者自らが無許諾の複製等を行っている第三者に対して、差し止めを求めたりすることができません。

 

 上述した不都合な状態は、許諾の内容について、最初から独占的利用許諾の契約(一人のみの許諾として著作者はその他の第三者に利用を許諾することができない。)とすることや著作者本人に差し止めの権利行使を促すことで解消されることもあるのですが、それ以前に、利用の許諾というものは、なんとも権利が弱いものだと言わざるを得ません。

 

 そこで、著作権法は、出版権と言う許諾よりも強い権利を著作者が出版社に与えることができることとし、作家やマンガ家と出版社間で、出版権を設定する契約というものが行えるように制度化しています。

 

 なお、後述する出版権の設定は、本来、財産権である著作権中の複製権や公衆送信権を有するものが設定できるものです。

 このため、これらの利用権が譲渡等されて別の者に移転していた場合、著作者でなく、この利用権を引き継いだものが出版権を設定できる者となりますが、話が難解になるので、本ブログでは、出版権設定者を著作者として記述します。

 

 

出版権とは

 

 出版権は、同権利の設定を受けた第三者(以下便宜上「出版社」といいます。)が①従来の紙ベースでの複製権や②CD-ROM等の販売型の電子出版の複製権や③インターネット上での配信型電子出版の公衆送信権(その前段階のサーバー等への複製の許諾を含みます。)を専有する権利です(同法第80条1項)。

 上記①~③について、その全部、又は、その一部を任意で出版権の対象とすることができます。

 通常は、著作者と出版社間で、出版権設定契約というものを結びますが、同契約書内で、いかなる利用形態が出版権の対象とされているかが明記されます。

 

 出版権を得た出版社は、自らが権利者となり、出版権の対象となっている利用形態を侵害している第三者に対して、その複製なり、公衆送信なりの差し止めを行えるようになります。

 専有は、独占的な利用ということなので、出版権を侵害する者は第三者のみでなく著作者本人の場合もあり得ます。

 著作者本人でも、出版社の同意なく、出版権の対象とした利用形態による作品の利用を行うことはできなくなります。

 

 また、出版権は、文化庁に登録することができます(同法第88条)。

 そこで、不動産と同様、文化庁に対する登録が対抗要件となり、出版権が二重設定などされた場合、登録を受けている出版社が権利を主張することができます。

 

出版権者がしなければならないこと

 

 このように出版権は、著作者が出版社に対し、強い利用地位を与えるものです。

 そして、出版権が有効な期間は、著作者が自ら利用することもできなくなります。

 しかし、出版社は、自社の都合で、その出版を保留したり、出版を取りやめたりしておいてよいとなると、著作者は、出版による印税収入を受ける機会を喪失したりしますので、不都合です。

 そこで、著作権法は、出版権の設定を受けた出版権者に次の義務を課すこととしました(ただし、設定契約で別段の定めをすることは可能です。)。

 

 ①及び②について、出版権者は作品の原稿その他原作品を受領した日から6か月以内に作品を出版し、慣行に従い継続して出版する義務を負います(同法第81条1号)。

 ③については、作品受領日から6か月以内に公衆送信行為を行い、慣行に従い継続して公衆送信行為を行う義務を負います(同条2号)。

 

 6か月を目安に作品を世に出してあげることであり、作品の需要がある限り、慣行に従って継続的に出版することです。

 有体物での出版については、概ね第1刷が完売すれば、継続して第2刷、第3刷と増刷を重ねていくこととなります。

 一方で、公衆送信行為については、いったん、アクセス可能なサーバーにアップロードすれば、公衆送信行為を継続していることとなりますから、継続義務違反はなかなか考えにくいのかもしれません。

 

 上記義務にも関わらず、第1刷や公衆送信行為の開始を6か月以内に行わなかった場合、著作権者は、出版権を消滅させることができます(同法第84条1項)。

 また、継続義務については、著作者が3か月以上の期間を定めて義務履行を求めたにも関わらず、履行せずに3か月経過した場合、これも著作者が出版権を消滅させることができるとしています(同条2項)。

 

 なお、上記以外に、出版権設定契約内の特約などで、任意の義務を出版社が負うことも可能です。

 

出版権の存続期間

 

 出版権の存続期間は、特段の定めがない限り、法律上、最初の出版行為等があった時から3年間とされています(同法第83条2項)。

 契約当事者間の設定で増減は可能です。

 一般的には3年~5年の間で設定されていて、契約書に明記されています。

 

 出版権の存続期間が経過しても、双方が関係継続を望むのであれば、出版権の更新契約を結ぶことになりますが、契約上で、自動更新条項とすることもあります。

 

 なお、存続期間中でも、著作者が死亡した場合、又は、契約で別段の定めがない限り、最初の出版行為等から3年経過した場合、出版権の対象となっている作品を著作者の全集その他の編集物(当該著作者の著作物のみを編集したものに限ります。)に利用するなどということは、認められています(同法第80条2項)。

 

 また、著作者は、自らの作品の内容が自己の確信に適合しなくなった時、その出版を廃絶するために、出版社に対し、作品から得られるはずだった利益分の損害賠償をすることで、出版権を消滅させることもできます。

 

著作者人格権は著作者に残る

 

 出版権は、あくまで著作権のうち複製権や公衆送信権という財産的権利に関わるものです。

 したがって、作品の著作者が有する人格的権利である著作者人格権は、著作者の下に残ります。

 

 出版関係で問題となりやすいのは、著作者人格権のうち同一性保持権(同法第20条1項)というもので、著作者は、その意に反して、作品の内容を変更、切除その他の改変を受けない権利を有しています。

 そこで、出版社は、出版権があろうとも、著作者の同意を得ずに、勝手に作品の修正・増減をして出版することはできません。

 

 また、これを裏面から保護する趣旨ですが、著作権法は、紙ベース等の有体物で改めて出版される際や、公衆送信行為が行われる際、著作者による作品に対する正当な範囲内での修正・増減の権利を与えています(同法第82条1項)。

 改めての出版の際に、出版社は著作者にその都度通知しなければなりません(同条2項)。

 著作者に、修正・増減の機会を確実に与えるためです。

 

出版権設定契約の参考となるもの

 

 以上が出版権に関する大まかな概要となります。

 出版権の知識をベースに、現実の契約では、様々な特約や詳細な条件が盛り込まれることが多いです。 

 実際のところ、契約内容の詳細については、出版社と作家間の力関係において、いずれが強いのかによって大きく異なってくることでしょう。

 

 なお、これから、出版権設定契約を結ぼうという新人の作家や漫画家にとって、参考になるのは、一般社団法人日本書籍出版協会(いわゆる書協)が同会ホームページ上で公表している契約書式です。

 解説も別途、付されているので親切であり、初心者の方には助かります。

 

 ここでは、紙媒体・電子出版一括設定用、紙媒体出版設定用、配信型電子出版設定用の3種類の書式が置かれており、世間でよく行われる出版権設定契約は、この書式を各出版社が特約などアレンジして作成されています。

 

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2020年06月25日